東京地方裁判所 昭和59年(行ク)90号 決定 1985年3月26日
申立人 中央労働委員会
補助参加人 日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合 外四名
被申立人 日本鋼管株式会社
主文
一 被申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする当庁昭和五九年(行ウ)第一〇二号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、申立人の昭和五九年六月六日付命令(中労委昭和五六年(不再)第一二号)により維持された神奈川県地方労働委員会の昭和五六年二月五日付命令(昭和五四年(不)第一七号)第一項のうち「被申立人は、申立人補助参加人佐藤実、同持橋多聞、同日和田典之を原職に復帰させなければならない。」との部分に従わなければならない。
二 その余の本件申立を却下する。
理由
本件申立の趣旨及び理由は、別紙(一)(緊急命令申立書)記載のとおりである。
そこでまず、本件申立によつてその履行を求める申立人の発した命令(以下「本件命令」という。)の適法性についてみるに、現時点においては、本件命令の事実認定及び判断はおおむね正当として是認することができ、そこに重大かつ明白な瑕疵等特段の事情があるとは認められない。
次に本件命令の必要性について検討するに、本件疎明によれば、被申立人は申立人補助参加人佐藤実、同持橋多聞、同日和田典之(以下「佐藤実ら」という。)に対し別紙(二)記載のとおり、仮処分決定に基づき昭和五四年五月以降の賃金(昭和五九年度までの賃上げ分を含む。)、昭和五四年度以降昭和五九年夏季までの各一時金の仮払いをしていることが一応認められ、しかも右仮払いのされている額を超えて仮払いを必要とすべき事情も認められないから、本件申立中佐藤実らに対し昭和五四年三月二七日以降の賃金、諸手当相当額及びこれに対する年五分の割合による相当額の支払いを求める部分については緊急命令を発しなければならない即時救済の必要性を欠くものというべきであるが、本件申立中佐藤実らの原職への復帰を求める部分についてはその履行がなされずこれに違反する場合には申立人補助参加人らの団結権が著しく侵害され、回復し難い損害を被ることが一応認められるから緊急命令を発する必要性があるものというべきである。なお本件申立は佐藤実らに対する解雇の撤回をも求めているが、緊急命令制度が救済命令取消請求事件の判決の確定に至るまでの暫定的な措置であることからすれば、解雇の撤回までを命ずるのは相当でなく、原職に復帰させるべき旨を命ずれば十分である。
よつて、本件申立のうち、佐藤実らの原職復帰を求める部分は認容し、その余の部分は却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 渡邊昭 近藤壽邦 遠山廣直)
別紙 (一)
申立の趣旨
右当事者間の御庁昭和五九年(行ウ)第一〇二号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、申立人が昭和五九年七月二六日、被申立人に交付した中労委昭和五六年(不再)第一二号事件に係る命令(昭和五九年六月六日付け)に従い、「被申立人は、申立外佐藤実、同持橋多聞、同日和田典之に対し、昭和五四年三月二七日付けでなした解雇を撤回し、原職に復帰させるとともに、解雇の日から原職復帰までの間支払われるべきはずであつた賃金、諸手当相当額に年五分相当額を加算して支払わなければならない。」との決定を求める。
申立の理由
一(一) 被申立人は、その雇用する申立外佐藤実(申立外日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合(以下「全造船」という。)傘下の日本鋼管分会(以下「分会」という。)の分会員)、持橋多聞(同)及び日和田典之(同)を、申立外重工労組とのユニオン・シヨツプ協定の履行を理由に、昭和五四年三月二七日付けで解雇した。
(二) このため、全造船及び分会並びに右佐藤ら三名は、右解雇が不当労働行為に当たるとして、神奈川県地方労働委員会(以下「地労委」という。)に救済を申し立てたところ地労委は、審査の結果、昭和五六年二月五日付けで別添疎甲第一号証の「主文」記載のとおりの命令を発した。
(三) 被申立人は、右命令を不服として昭和五六年二月一七日申立人に再審査を申し立てた(中労委昭和五六年(不再)第一二号事件)。
二 申立人は、右事件を審査した結果、昭和五九年六月六日付けで疎甲第二号証の「主文」記載のとおりの命令を発した。
三 被申立人は、右命令を不服として、昭和五九年八月二一日御庁にその取消しを求める行政訴訟を提起し、現在、御庁昭和五九年(行ウ)第一〇二号事件として審理中である。
四 被申立人は、右命令交付後もこれを無視する態度を続けており、組合側から右命令の履行を求められているにもかかわらず、現在もこれに応じていない。もし本件行政訴訟の判決確定に至るまで現在の状態が継続し、申立人の発した右命令の内容が速やかに履行されなければ全造船及び分会の団結に与えた侵害並びに分会の分会員の経済的損失、精神的苦痛は顕著なものがあり、ひいては労働組合法の立法精神も没却されることになる。
五 したがつて、申立人は、昭和五九年九月一九日の第九四三回公益委員会議において、労働組合法第二七条第八項に規定する緊急命令の申立てをすることを決議した。
よつて本件申立てに及んだ次第である。
別紙 (二)
賃金仮払・仮処分 決定状況
賃金仮払仮処分
決定年月日
裁判所
(事件番号)
仮処分内容
佐藤実
持橋多聞
日和田典之
昭和五五年三月三一日
横浜地方裁判所
(昭和五四(ヨ)第三〇五号)
賃金仮払金
(昭和五四年五月以降本案確定に至るまで)
一カ月
一四二、三九一円
一カ月
一三八、二〇九円
一カ月
一二〇、三三七円
同
五五年七月一〇日
同右
(昭和五五(ヨ)第六〇七号)
五四年度賃上げ分
同夏季一時金
同年末一時金
八三、七六〇
二四五、四〇〇
二四六、二〇〇
七九、五一二
二一九、〇〇〇
二一八、五〇〇
六九、七五六
一六五、五〇〇
一六五、一〇〇
同
五五年九月二五日
同右
(昭和五五(ヨ)第一二〇七号
五四年度賃上げ分
同夏季一時金
三七、七三二
三一四、五〇〇
三六、〇一六
二七八、四〇〇
三三、〇八〇
二三四、四〇〇
同
五五年一二月二五日
同右
(昭和五五(ヨ)第一六九七号)
五五年度末一時金
三一五、六〇〇
二七九、五〇〇
二三六、六〇〇
同
五六年一〇月一四日
同右
(昭和五五(ヨ)第一〇二二号)
五六年度賃上げ分
同夏季一時金
五三、四一二
三五〇、五〇〇
五七、八三六
三三九、八〇〇
五一、八四四
二六九、三〇〇
同
五六年一二月一一日
同右
(昭和五六(ヨ)第一四八九号)
五六年度年末一時金
三五七、三〇〇
三四六、六〇〇
二七五、九〇〇
同
五七年八月一〇日
同右
(昭和五七(ヨ)第一〇一七号)
五七年度賃上げ分
同夏季一時金
三八、六六四
三七三、二〇〇
三八、二二九
三六二、五〇〇
三三、六三六
二九〇、七〇〇
同
五七年一二月二〇日
同右
(昭和五七(ヨ)第一六一九号)
五七年度年末一時金
三八三、三〇〇
三七二、三〇〇
二九八、四〇〇
同
五八年七月二八日
同右
(昭和五八(ヨ)第八二八号)
五八年度賃上げ分
同夏季一時金
一五、六九二
三八四、〇〇〇
一五、四七六
三七三、二〇〇
一四、六七六
三〇〇、四〇〇
同
五八年一二月一五日
同右
(昭和五八(ヨ)第一四二八号)
五八年度年末一時金
三八八、八〇〇
三七七、九〇〇
三〇四、一〇〇
同
五九年八月一六日
東京高等裁判所
(昭和五九(ウ)第八七二号)
五九年度賃上げ分
同夏季一時金
二四、〇〇六
四〇〇、七〇〇
二三、六六四
三八九、六〇〇
二二、三〇八
三一四、〇〇〇